子どもに優しい市である兵庫県明石市。これは2019年に発刊された本で、明石市の取り組みや問題点などが書かれています。
明石市は私が応援している シングルマザーさんにぜひ住んでほしいところです。うれしいことに、同じ関西圏なので可能性大です。
子どもが増えた! 明石市 人口増・税収増の自治体経営(まちづくり) (光文社新書)
【 目次 】
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本の構成
6人のスペシャリストとの対談形式をとっています。また、すべての講に「コラム」の形で市民参加しています。こういう章立ては珍しいですね。
- 第一講 藻谷浩介氏 地域エコノミスト
人口動態で見る地域の「健康」 - 第二講 木村厚子氏 元厚生労働事務次官
マイノリティが社会発展のカギを握る - 第三講 藤山浩氏 持続可能な地域社会総合研究所
1%の積み上げで地域は蘇る - 第四講 清原慶子氏 三鷹市長
市民とともに責任を担い合う自治 - 第五講 北川正恭氏 元三重県知事
「転換期」のリーダーに求められるもの - 第六講 さかなクン 東京海洋大学名誉博士
「魚目線」で地域の自然を見る
なぜ さかなクンが?
さかなクンの登壇が謎だったのですが、明石はタコ漁で有名な地域ですよね。タコはとても賢くて、栄養価が高いそうです。この本ではタコの話だけではなく、トラック(とてもお好きだそうです)や環境全般のことを語っておられます。
この本の表紙はさかなクンの作品です。左のスズキは、最初に女性と勘違いしましたが、湯浅誠さんだそうです。右のタコは泉市長ですね。
「企業誘致はしない」で初当選
第一講のゲストは藻谷浩介氏です。
私の居住地でも前市長のときに、藻谷浩介氏をお呼びして地域開発についての研修がありました。氏の詳細なデータと膨大な知識、先を見通す力に感嘆したものです。
この対談でも述べられていますが、「企業誘致」に乗り出したい前市長に対して反対の立場をとられていました。
「移転するということは企業にとってリスクが大きい。誘致しても危険を冒してまで企業が来るかというと、実現性がない。それよりも地元の企業を育てること。」とおっしゃっています。
前市長は政治畑だけの人ではなく、都内の企業の社長でした。そんな経歴でも「企業誘致」を持ち出してしまう。法人税が入るだけでなく、雇用も促進できるからです。ただし、企業としては、よほどメリットがなければ誘致には乗りません。それだけ難しいのです。
この対談では、藻谷氏がその話を持ち出す前に、そもそも泉明石市長が「企業誘致や産業振興はしません」として当選している(笑)ので、藻谷氏が「日選挙民から反対はなかったか」と尋ねています。
明石市の改革ができたのは?
ポリシーと綿密な計画
市長や目立つ政策ばかり見ていると、突飛な方法やゲリラ的な行動で改革していったように感じられます。
しかし、それは大きな勘違いです。ぶれないポリシーと綿密な計画が立てられたうえでの改革です。
たとえば、公務員の縦割りの仕事でも、的確な処理が早く行われるように人員配置を工夫しています。
行動することが大事
必ず行動が伴うのも特長でしょう。
何かを変えるとき、啓発だけやるのはずるいと思うのですね。行動しないで自分の主張だけ通すことだからです。
周囲からすれば、延々と「個人の主義主張」を聞かされることは苦痛です。
また、論に走るので次第に極論になりますし、一致団結をはかるため「共通の敵」をつくって攻撃する危険もあります。特に、専門的な支援者を攻撃することは、支援をさらに遠ざけてしまいます。
第一、「主義主張」だけなら、今困っている人には何の得にもならない。今食べるものがなく困っている人に「主義主張」を説いても、その人のお腹が満たされることはありません。
それだけでなく、危険思想に偏りそれを煽ることで、今困っている人への偏見の目を生みます。
ベッドタウンとしての価値
明石市の戦略は神戸や姫路のベッドタウンとして内需を広げていくものです。企業誘致はしないため、最初の法人税は少なくなりますが、人口が増えるにしたがって生活必需品を中心とした商店などの第三次産業が増え、徐々に法人税も増えていきます。
また、人口を増やすには、大人に声をかけるより、子ども、特に0~4歳児を呼び込んだ方が手っ取り早い。外部から子どもが来るということは、当然その親も来ます。
20代から30代くらいの大人2人が移住してくれれば、2人分の住民税も増えます。その年代は65歳までといわれる労働人口年齢に当たるだけでなく、長期にわたって働いてくれます。住民税や、そこで家を購入してくれれば固定資産税も見込めます。
こうやって税金収入を増やしていくと、中央政府に頼らない財政運営ができます。すると、市独自の政策を行いやすくなるのです。
ナビゲーターの力
この本では毎回の対談に湯浅誠氏が加わっています。湯浅誠氏は貧困問題に真っ向から取り組んでおられる方です。実際に、炊き出しに必要な米穀を収集するフードバンク、ホームレス支援、年末に派遣を切られて住まいや食費に困った人たちへの年越し派遣村、全国こども食堂支援センター・むすびえを設立しています。
実際に組織して行動している方たちは現場をよく知るだけでなく、解決策を具体的にお持ちです。
事例を多く持っているからこそ、少ない臨床例で振り回されることが少ないのです。
多くの事例を属性ごとにまとめていかないと「私の場合はこうだった」「いや、私のほうが大変だった」など、個人ごとの問題だらけになりますから・・・
明石市の場合、政策にも湯浅氏の意見が反映されているとのこと。このようなプロの参加はやはり「現場の声」が活かされます。
まとめ
企業誘致なしで税収を増やしたという不思議な事例です。
中身が濃い本なので、ほんの一部だけの紹介になってしまいました。引き続き感想などを書いていきたいと思います。